2022年にバズワードとして広まったメタバースですが、2024年現在ではメタバースは流行らなかった「失敗したもの」として一部扱われています。
なぜメタバースは失敗したとされているのか、うまくいかなかった理由、また今後どうなるのか説明していきます。
Contents
メタバースとは
メタバースは、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などの技術を活用して作られた、インタラクティブな3D仮想空間です。現実世界を模倣し、人々がアバターを通じて社交、ゲーム、ビジネスなど様々な活動を行えるプラットフォームを指します。メタバースは、現実とデジタルの境界を曖昧にし、新たなコミュニケーションや経済の形を生み出す可能性を秘めています。このコンセプトは、科学技術の進歩とともに、ますます現実味を帯びてきています。
期待されたメタバースの未来像
メタバースの未来像は、現実世界とデジタル世界が融合することで、私たちの生活を根本から変えると期待されています。このビジョンでは、メタバースは単なるゲームやエンターテイメントの場ではなく、仕事、教育、社交活動など日常生活のあらゆる側面を包括するプラットフォームとなります。
仕事とビジネスの変革
メタバースは、リモートワークをさらに進化させ、仮想オフィス空間でのコラボレーションやプレゼンテーションを可能にします。企業は仮想空間でグローバルな顧客と直接交流し、新たなビジネスモデルを展開できるようになるでしょう。
教育の進化
教育分野では、メタバースが実践的な学習体験を提供し、学生が仮想環境で実験やシミュレーションを行うことができます。これにより、学習の質が向上し、より実践的な知識が身につくことが期待されます。
社会的相互作用
メタバースは、アバターを通じて人々が新しい形の社交を楽しむ場となります。友人や家族との交流だけでなく、新たな出会いやコミュニティ形成の場としても機能します。
エンターテイメントの革新
エンターテイメント業界では、コンサートや映画の体験がメタバースで再定義されます。ユーザーは自宅にいながら、仮想世界でのライブイベントや映画鑑賞を楽しむことができるようになります。
経済システムの構築
メタバース内での経済活動も活発になり、仮想通貨やNFTなどのデジタル資産が流通します。これにより、新たな種類の職業やビジネスが生まれ、経済システムが拡大することが予想されます。
個人のアイデンティティとプライバシー
メタバースでは、個人のアイデンティティがアバターによって表現され、プライバシーの保護が重要な課題となります。ユーザーは自分のデジタルアイデンティティをコントロールし、プライバシーを守るための新しい方法を模索する必要があります。
これらの期待される未来像は、メタバースが私たちの生活にどのように統合され、社会にどのような影響を与えるかを示しています。技術の進歩とともに、これらのビジョンが現実のものとなる日も遠くないでしょう。
メタバースの現状
日本国内でメタバース事業に挑戦したものの、事業化に失敗した例として、NTTデータグループのコンサルティングファームであるクニエが行った調査によると、事業化の成否が判明した取り組みのうち91.9%が事業化に失敗していることが分かりました。ただし、この調査では具体的な企業名は公表されていません。
一方で、メタバース事業に成功している企業としては、ClusterやPsychicVRLab、REALITYなどが挙げられます。これらの企業は、メタバースプラットフォームの提供やXRコンテンツの開発など、様々な形でメタバース市場に貢献しています。
メタバースの失敗例
メタバースプロジェクトの失敗例とその原因について、以下に4つの事例を挙げます。
Google Lively
失敗内容
Google Livelyは、2008年にGoogleが開始した3Dアバターを作成できる仮想空間でした。ユーザーは自分のアバターやバーチャルルームを作成し、カスタマイズすることができました。しかし、同年中にサービスは終了しました。Livelyは、Second Lifeのような他の仮想世界と競合していましたが、ユーザーの関心を引くことができず、短期間で閉鎖されました。
失敗原因
ユーザーの関心を維持できず、持続的な成長に繋がらなかった。失敗の要因としては、Google自身が述べているように、実験的な試みがすべて成功するわけではないという点が挙げられます。また、Googleはリソースを検索、広告、アプリケーション事業などの中核事業に集中させたいと考え、Livelyのプロジェクトを終了させました。
Metaの事業縮小
失敗内容
Meta社のメタバースは、3次元の仮想空間で人々がアバターを通じて活動するインターネットの進化形です。ユーザーは会話、イベント参加、ゲームなどを楽しむことができます。VRデバイスを通じてより没入感のある体験が可能になります。
失敗原因
メタバース事業の失敗要因としては、赤字続きの事業運営、Meta Quest3の売れ行き不振、現実的でないコスト見積もり、ビジネスモデルの不備などが挙げられます。これらはメタバース市場の閉塞感と、ユーザーの期待に応えられないサービス展開に繋がりました。
ウォルト・ディズニー・カンパニーのメタバース部門廃止
失敗内容
ウォルト・ディズニー・カンパニーのメタバース事業は、バーチャルディズニーストアの開設やバーチャルハロウィーンイベントの実施、仮想世界シミュレーターの特許取得など、多岐にわたる取り組みを行いました。これらは、ディズニーの豊富なエンターテインメント資産とテクノロジーを活用し、ファンとの双方向性を深めることを目指していました。
失敗原因
一方で、ディズニーのメタバース事業は、短期的な成果が見えづらいという課題がありました。さらに、事業のコスト削減やストリーミング領域での競争激化により、2023年3月にメタバース部門が廃止されました。これにより、メタバースへの先行投資が中断され、約7,000人のレイオフの一環として部門が解体されました。
マイクロソフトのProject AirSim中止
失敗内容
Project AirSimは、マイクロソフトが開発したドローンのAIを訓練するための産業メタバースで、バーチャル空間での飛行テストを通じてAIを鍛えることができました。このプロジェクトは、Azure上で動作し、リアルな環境での飛行テストをシミュレートすることが可能でした。
失敗原因
Project AirSimの中止の要因としては、マイクロソフトがOpenAIへの集中投資を図る戦略的な判断から、産業メタバースへの取り組みを中止し、関連するチームを解雇したことが挙げられます。これにより、Project AirSimは開発を停止し、プロジェクトは終了しました。
これらの事例は、メタバースプロジェクトが直面する多くの課題を浮き彫りにしています。技術的な障壁、市場のニーズの理解不足、ユーザーエンゲージメントの欠如などが、失敗に至る主な要因として挙げられます。
メタバース失敗の背景
技術的な障壁と制限
メタバースの失敗の背景には、技術的な障壁と制限が大きく関わっています。これらの課題は、メタバースのポテンシャルを最大限に引き出すために克服しなければならない重要なポイントです。
ハードウェアの制約
現在のハードウェア技術では、メタバースが必要とする高度なデータ処理能力を満たすことが困難です。特に、VRヘッドセットの重さやバッテリーの持続時間、VR酔いなどの問題は、ユーザー体験を大幅に低下させる原因となっています。これらの問題は、ユーザーがメタバース内での活動を長期間継続する障壁となり、結果としてユーザー離れを引き起こす可能性があります。
ソフトウェアの未熟さ
メタバースを支えるソフトウェアもまた、多くの技術的課題を抱えています。例えば、リアルタイムでの3D環境のレンダリングや、複数のユーザー間での同期など、安定した運用には至っていません。また、直感的なインターフェースの欠如や、実物の忠実な再現性の不足は、ユーザーが完全に没入することを妨げています。
インタラクティビティの問題
メタバース内でのインタラクティビティは、ユーザーが現実世界と同様の自然なやり取りを期待する上で重要です。しかし、現在の技術では、ユーザーが物理的な感覚を伴って仮想世界と対話することは限られています。これにより、ユーザーは行動に制限を感じ、没入感が損なわれます。
セキュリティとプライバシー
セキュリティとプライバシーの問題も、メタバースの普及における大きな障壁です。ユーザーのデータ保護や、仮想空間内での個人情報の扱いに関する法的枠組みが未整備であるため、ユーザーはプライバシー侵害のリスクにさらされています。
社会的・文化的な受容性
技術的な問題に加え、社会的・文化的な受容性もメタバースの普及に影響を与えています。多くの人々がメタバースの概念を理解し、受け入れるまでには時間がかかります。また、メタバースが提供する新しい形のコミュニケーションや交流が、既存の社会構造にどのように適合するかは、依然として未知数です。
これらの技術的な障壁と制限は、メタバースの成功に向けた大きな課題となっており、その解決には持続的な研究開発投資と共に、新たな技術革新が不可欠です。メタバースの将来は、これらの課題を克服し、ユーザーにとって魅力的な仮想空間を提供できるかにかかっています。
ユーザー体験の問題点
メタバースの失敗におけるユーザー体験の問題点は多岐にわたります。以下に主要な問題点を挙げ、それぞれについて詳しく説明します。
直感的でないインターフェース
メタバースのプラットフォームは操作が複雑であり、新規ユーザーが容易に環境に適応することを困難にしています。使いやすいインターフェースの設計が不足しているため、ユーザーが完全に没入することを妨げています。
VR酔い
ユーザーの頭の動きとそれに合わせたメタバース内での視点の変化に遅れが存在すると、VR酔いが生じます。これは、メタバースを体験する際の大きな障壁となっています。
身体的な悪影響
HMDなどのデバイスを装着してメタバースにアクセスする際に、乗り物酔いや転倒などの事故のリスクが存在します。また、HMDの質量の問題で首や頭が痛くなったり、目の眼精疲労に繋がるなど、身体的な悪影響に繋がることが懸念されています。
技術的な未熟さ メタバースを支える技術は進化していますが、安定した運用には至っていません。サーバーの帯域幅や処理速度の限界による遅延は、ユーザー体験を大幅に低下させる原因となり得ます。
これらの問題点は、メタバースの普及と持続可能性に大きな影響を与えています。ユーザーがメタバース内での活動を長期間継続するためには、これらの課題を克服し、より良いユーザー体験を提供することが不可欠です。
メタバースの課題と解決策
メタバースの現在の課題
メタバースは、仮想空間における人々の交流や活動を可能にする技術であり、多大な可能性を秘めていますが、現在も多くの課題に直面しています。以下に主要な課題をまとめました。
高いPCスペックと通信環境が必要
メタバースを楽しむためには高いPCスペックが必要であり、通信環境も重要です。高いスペックのPCでないと、メタバースのクリエイター視点だと、ハイクオリティなワールドを制作するには、高いGPUとメモリを備えたPCが必要になります。またユーザー視点だと、リアルタイムレンダリングをするのに、高スペックな端末が求められます。
法律やルールを整える
メタバース内での法律やルールの整備が追いついていないことも大きな問題です。ユーザーの行動に対する規制や、仮想空間内での権利関係の整備など、現実世界と同様の社会的枠組みが必要とされています。これは日本だけでなく他国と合わせて法整備する必要があるため、整うまでに長い時間を要すると考えられます。
セキュリティとプライバシー
メタバースにおけるセキュリティとプライバシーの問題は深刻で、ユーザーのデータ保護や個人情報の扱いに関する法的枠組みが未整備であるため、ユーザーはプライバシー侵害のリスクにさらされています。
社会的・文化的な受容性
メタバースの概念を理解し、受け入れるまでには時間がかかります。また、メタバースが提供する新しい形のコミュニケーションや交流が、既存の社会構造にどのように適合するかは、依然として未知数です。
ユーザー体験の問題点
直感的でないインターフェースやVR酔い、身体的な悪影響、心理的な悪影響など、ユーザー体験に関する問題点も多く、メタバースの普及と持続可能性に大きな影響を与えています。
これらの課題を克服し、より良いユーザー体験を提供することが、メタバースの将来にとって不可欠です。技術的な進歩、法的枠組みの整備、セキュリティ対策の強化、社会的受容性の向上など、多方面での取り組みが求められています。
メタバース専門家による解決策の提案
メタバースの現在の課題に対する解決策は、技術的、社会的、経済的、政治的な観点から多角的にアプローチする必要があります。以下に、専門家視点からの主要な解決策を紹介します。
技術的観点
ハードウェアの進化: VR/ARデバイスの軽量化、バッテリー寿命の延長、快適な装着感を実現することで、ユーザー体験を向上させます。
ソフトウェアの最適化: リアルタイムレンダリングの効率化や、ユーザーインターフェースの直感化を進めることで、アクセシビリティを高めます。
社会的観点
教育と啓発: メタバースの概念と利用方法に関する教育を普及させ、ユーザーの理解を深めます。
コミュニティの形成: ユーザーが安心して参加できるコミュニティを構築し、メタバースの社会的受容性を高めます。
経済的観点
ビジネスモデルの革新: メタバース内での新たな収益モデルを開発し、持続可能な経済システムを構築します。
投資と支援: メタバース関連のスタートアップやプロジェクトへの投資を促進し、イノベーションを支援します。
政治的観点
法規制の整備: メタバース内での行動規範や法的枠組みを確立し、ユーザーの権利を保護します。
国際協力: 国際的な基準を設け、メタバースのグローバルな普及に向けた協力を強化します。
これらの解決策を総合的に推進することで、メタバースの現在の課題を克服し、そのポテンシャルを最大限に引き出すことが可能になります。
成功しているメタバースの事例
成功したメタバースの事例として以下の5つが挙げられます。
①Roblox
約4億人のユーザー数を誇るメタバースゲームプラットフォームです。ユーザーが自らゲームを制作し、共有することができる環境が提供されています。
②REALITY
海外ユーザー比率が8割を超える日本発のメタバースアプリで、ライブ配信を中心としたコミュニケーションが可能です。
③Cluster
累計動員数2,000万人を超える日本最大のメタバースプラットフォームで、様々なバーチャルイベントが開催されています。
④バーチャルマーケット
ギネスにも認定された世界最大のメタバースイベントで、多数の出展者と訪問者がバーチャル空間で交流します。
⑤サンリオバーチャルフェス
50組以上のアーティストが参加する有料ライブイベントで、バーチャル空間でのコンサートを楽しむことができます。
これらの事例は、メタバースが提供する新しい形のコミュニケーションや体験が多くのユーザーに受け入れられていることを示しています。
まとめ
メタバースは、仮想空間での人々の交流や活動を可能にする技術であり、その将来性は大きいとされています。技術の進歩とサービス開発により、市場は拡大傾向にあります。総務省の予測では、世界市場は2030年には78兆円以上になると見込まれています。この成長は、ビジネス、教育、エンターテインメントなど多様な分野でのメタバースの活用が進むことによるものです。
2022年にメタバースがバズワードとなって注目を浴びましたが、技術面でまだユーザーの期待値と乖離があり、下火になってしまいました。また、メタ社の失敗によって、「メタバース自体が失敗」という印象が広まりましたが、ここからが本当のスタートで、今後どんどん伸びていくことでしょう。